横浜地方裁判所 昭和54年(ワ)1011号 判決 1982年5月27日
原告 中田和子
<ほか一名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 飯田伸一
同 岡田尚
同 三野研太郎
同 横山国夫
同 木村和夫
同 三浦守正
同 山内道生
同 星山輝男
同 林良二
被告 相鉄建設株式会社
右代表者代表取締役 柳原節義
右訴訟代理人弁護士 竹川哲雄
同 沼尾雅徳
主文
一 被告は、原告中田和子に対し、金六四七万四二七七円、同中田和彦に対し、金一〇五四万八五五三円及び右各金員に対する昭和五四年六月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
1 被告は、原告中田和子に対し、金二〇七六万二〇四六円、同中田和彦に対し、金二八五二万四〇八九円及び右各金員に対する昭和五四年六月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告中田和子(以下「原告和子」という。)は訴外亡中田宣郎(以下「宣郎」という。)の妻であり、原告中田和彦(以下「原告和彦」という。)は宣郎及び原告和子の長男である。
2 事故の発生
(一) 宣郎は、昭和五一年八月ころ、横浜市中区伊勢佐木町所在の訴外有限会社濱一靴店に勤務していたが、同月二七日午後八時四〇分ころ、相模鉄道線いずみ野駅から同市戸塚区上飯田町一三三一番地、上飯田団地一九―四一〇号の自宅へ自転車で帰る途中、同区和泉町五六三二番地付近の下り坂に差しかかった際、坂の途中(以下「本件現場」という。)に道路と直角に幅員一杯に置いてあった直径約一〇センチメートルの工事排水用ビニールホース(以下「本件ホース」という。)に右自転車を乗り上げたか、又は右ホースの上でタイヤがスリップして転倒し、頭部、顔面を路面に打ちつけ、右額部挫創、門歯二本破損の傷害を負った(以下「本件事故」という。)。その後、宣郎は自転車を引いて帰宅したのち、救急車で藤井外科医院に搬送されたが、同月三一日午後七時二〇分ころ、右負傷による外傷性後発性脳出血により死亡した。仮に、右死亡が外傷性後発性脳出血によるものでないとしても、宣郎の基礎疾病である高血圧症、動脈硬化症が右負傷を原因として異常に早期に発症又は急激に増悪して脳出血を惹起し、これにより死亡した。
(二) 原告和子及び同和彦は、昭和五一年八月三一日、宣郎の死亡による相続によって、同人の権利を承継した。
3 被告の責任
(一) 被告は、本件ホースの占有者である。
(二) 本件ホースは、土地に接着して人工的作業を加えることによって成立したものであるから、民法第七一七条第一項にいう「土地ノ工作物」に該当し、その設置の瑕疵により発生した本件事故について被告は、民法第七一七条第一項本文の責任がある。
(三) 仮に、被告が占有者としての責任を免れるとしても、本件ホースの所有者として同条同項但書の責任を負う。
(四) 仮に、本件ホースが土地の工作物に該らないとしても、被告には、次のような過失があるから、民法第七〇九条の責任を負う。
(1) 本件現場は、相模鉄道線いずみ野駅に近接する宅地造成地内の幅員約六メートルのアスファルト舗装の道路上で、勾配の急な(一二・六パーセント)下り坂の途中であるが、その付近の照明は、いずみ野駅方向から上飯田団地方向に向って、右側の宅地造成地内に防犯灯が一基あるのみで、夜間は道路上の障害物の識別が困難であった。そして、本件現場は、いずみ野駅と上飯田団地とを結ぶ道路上なので、通勤、通学に利用する者が多かった。
(2) 被告は、本件現場の状況から通行人が本件ホースにつまずいて転倒するなどの危険性があったにもかかわらず、これを道路に直角に、幅員一杯に設置し、しかも道路との段差を放置し、危険である旨の表示や夜間でもホースの状態を認識できる照明等危険を防止するために必要な人的、物的設備を何ら設けなかった。
4 損害
(一) 宣郎の損害
(1) 逸失利益 金三〇三八万三〇七五円
宣郎は、昭和一二年七月二五日出生の男子で、死亡当時年収二五二万四三四円を得ていたが、本件事故がなければその後二八年間は就労可能で、その間少なくとも右収入を得られた筈であり、同人の逸失利益算定について控除すべき生活費は収入の三〇パーセントと考えられるから、同人の死亡による逸失利益をホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金三〇三八万三〇七五円となる。
算式
2,520,434×0.7×17,221=30,383,075
(2) 慰藉料 金一五〇〇万円
宣郎は、本件事故当時満三九年で、妻子とともに確固たる生活の基盤を築き、これから益々充実してゆく人生の途上において、尊い生命を奪われたものであり、その精神的苦痛は計り知れない。したがって、宣郎の慰藉料は金一五〇〇万円が相当である。
(3) 相続
宣郎の損害賠償請求権の合計額のうち、原告和子はその三分の一である金一五一二万七六九二円、原告和彦はその三分の二である金三〇二五万五三八三円をそれぞれ相続した。
(二) 原告ら自身の損害
(1) 原告和子の損害 金八〇〇万円
(ア) 慰藉料
原告和子は最愛の夫を失い、計り知れない精神的打撃を受けた。また、一家の支柱を失ったため、苦しい生活を余儀なくされている。これに対し、被告は今日に至るまで何ら誠意を示していない。
よって、原告和子の慰藉料は金三〇〇万円が相当である。
(イ) 弁護士費用
原告和子は、被告が任意に損害を賠償しないので、やむなく弁護士に訴訟の追行を依頼し、日本弁護士連合会報酬等基準規程に従い、手数料及び報酬を支払う旨約している。
その弁護士費用のうち少なくとも金五〇〇万円が相当因果関係ある損害というべきである。
(2) 原告和彦の損害 金三〇〇万円
原告和彦は宣郎の唯一の子供で、思春期に父親を失った悲しみは察するに余りある。
よって、原告和彦の慰藉料は金三〇〇万円が相当である。
5 損害の填補
原告らは、昭和五四年五月二日、本件事故に関し、労働者災害補償保険金として金七〇九万六九四〇円の支払を受けた。右金額を相続分に応じて配分すると、原告和子について金二三六万五六四六円、原告和彦について金四七三万一二九四円となる。
6 結論
よって、被告に対し、原告和子は4(一)(3)、同(二)(1)の合計額から5の金額を差引いた金二〇七六万二〇四六円、原告和彦は4(一)(3)、同(二)(2)の合計額から5の金額を差引いた金二八五二万四〇八九円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年六月五日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因事実1は認める。
2 同2(一)のうち本件現場が下り坂で、昭和五一年八月二七日午後八時四〇分ころ、同所に道路を横断して本件ホースが置いてあったこと及び宣郎が同月三一日午後七時二〇分ころ脳出血で死亡したことは認め、宣郎が本件ホースに乗り上げあるいはスリップして転倒したことは否認し、右転倒と脳出血ないしは死亡との間に因果関係があることは争う。その余の事実は知らない。
3 同2(二)は認める。
4 同3(一)は認める。同3(二)の本件ホースが土地の工作物であり、その設置に瑕疵があったとの点は争う。同3(三)は否認する。同3(四)(1)のうち、宅地造成地内に街灯が一基あるのみで夜間は道路上の識別が困難であったとの点及び本件現場付近の勾配が急であるとの点は否認する。本件現場付近の勾配は七・三〇パーセントで、緩やかな傾斜となっている。その余の事実は認める。同3(四)(2)は否認する。同4は争う。
三 抗弁
1 本件ホースは、前記の街灯からわずかに下った位置から、いわば本件道路を横断する形で、その反対側にわたされていたもので、更に下方には、本件道路が他の道路と変形T字型に交差している付近に投光器が設置されていたし、前記街灯から本件道路の同じ側を約二五メートル上った場所にも同種の街灯が設置されていた。従って、被告は、損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたもので、占有者としての責任はない。
2 仮りに、本件ホースが土地の工作物であり、しかも宣郎が本件ホースによって転倒し、かつ、その転倒による負傷を原因として死亡したとしても、宣郎には次のように過失がある。すなわち、宣郎は、飲酒し、アルコールの影響下にあったのであるから、自転車を運転してはならず、これを差し控えるべき義務があったのに、これに違反した。
また、本件現場が宣郎の通勤経路に当っているとすれば、宣郎はこの道路が、下り坂で、土地区画整理地区内にあり、本件事故当日、工事が行われていたことを知っていたのであるから、自転車で通過しようとする場合には、制動をかけ徐行しながら下るべき義務がある。しかも、当日は感冒にかかって高熱を出し、全身倦怠の状態であったのに、医師の指示を無視して勤務したばかりでなく、右のとおり飲酒までしていたのであるから、なおさら慎重に走行すべき注意義務があったものというべきである。
しかるに、宣郎はそのような行動をとらなかったのであるから、宣郎の注意義務違反は、損害賠償額を算定するについて十分に斟酌されるべきである。
四 抗弁に対する認否
否認する。
理由
一 本件事故の発生及び相続
1 請求原因1の事実及び同2(一)のうち本件現場が下り坂で、昭和五一年八月二七日午後八時四〇分ころ、同所に道路を横断する形で本件ホースが置かれていたこと、宣郎が、同月三一日午後七時二〇分ころ脳出血で死亡したこと並びに原告和子及び同和彦が、同日、宣郎の死亡による相続によって、同人の権利を承継したことは当事者間に争いがない。
2 本件ホースによる宣郎の転倒の有無
《証拠省略》によれば、宣郎は、昭和五一年八月二七日午後七時三〇分ころ、横浜市中区伊勢佐木町所在の有限会社濱一靴店を同僚の今野健一とともに退社し、もよりの国鉄関内駅から国電に乗車し、横浜駅で相模鉄道線に乗換え、二俣川駅で同人と別れたのち、いずみ野駅に到着して下車し、同駅前路上に留めて置いた自転車に乗って同市戸塚区上飯田町一三三一番地、上飯田団地一九の四一〇号の自宅へ向ったこと、いずみ野駅と自宅とは距離にして約二・一キロメートル、時間にして自転車で約一五分で、宣郎は、同日午後八時五〇分すぎころ帰宅したが、その際宣郎の右顔面には腫脹を伴う挫創があり、右眼上部にはこぶができ、口から出血していたこと、そして、原告和子に対し「今朝行くとき道路の上にあった工事用のホースが平べったいので何も気にしないで帰ってきたら、ホースが満たんになっていたので、自転車がつっかかって砂利のようなところに突込んでしまった。崖からでも落ちたような気がした。」旨述べたこと、驚いた原告和子は直ちに救急車を呼び、間もなく宣郎は同区中田町一一二二―七二番地所在の藤井外科医院に搬送されたが、その際、救急隊員や同行した原告和子に対して「何か宅造地の路上で、暗かったので、ビニールホースに引っかかって倒れた。」旨述べたこと、そして、来院約一時間後に意識混濁となり、口から血をはき、翌二八日午前零時三〇分ころからこん睡状態となり、同医院で死亡したこと、この間の同月二九日、宣郎の弟中田和郎が、神奈川県戸塚警察署和泉派出所に本件事故を届出て、同日、同署員が、いずみ野駅から前記自宅までの各道路を見分したが、その際、宅地造成工事が行われていたのはいずみ野駅から約五〇〇メートル離れた本件現場付近しかなく、本件現場には本件ホースが設置され、道路は、両側にコンクリートブロック様の土留があり、本件ホースの設置されていた場所のすぐ南側で砂利道様の非舗装道路とT字型に交差していたこと、そして、本件ホース付近は、後記二4のとおり照明が不十分で、本件ホースについて何ら道路との段差をなくす措置がとられておらず、危険を表示する標識等の設置もなかったこと、以上の事実が認められ、この事実を総合すると、宣郎は、同月二七日午後八時四〇分ころ、本件現場において、乗っていた自転車が本件ホースに乗り上げたか、あるいは自転車のタイヤが本件ホース上でスリップしたかして転倒し、付近のコンクリートブロック様土留あるいは砂利道様非舗装道路に衝突して、頭部、顔面を打ち、右事故(本件事故)により傷害を負ったものと認められる。
なお、《証拠省略》によれば、いずみ野駅と自宅との間には、本件現場を通る道路以外にも経路のあることが認められるが、《証拠省略》を総合すると、本件現場は、いずみ野駅から自宅に向う道幅の比較的広い道路で、しかも、いずみ野駅から本件現場を通って前記上飯田団地に至る経路(《証拠省略》の書込部分に相当する。)が、最短の長さを構成し、通常、同団地に居住する人が通りそうな道路であることが認められ、これによれば、他に経路があることをもって前記認定は左右されない。
3 右転倒と宣郎の死亡との因果関係の存否
《証拠省略》によれば、宣郎には元来高血圧症及び動脈硬化症の持病があったこと、本件事故当日は、午前中の測定によれば血圧が一五〇―八〇であったが、感冒に罹患して高熱(三九度)を発し、発汗、全身倦怠感、悪感、四肢関節痛を訴え、イセザキ診療所の医師工藤晃から安静、治療するよう進言されていたこと、帰宅途中、横浜駅で清酒一合を立ち飲みしたこと、藤井外科医院に搬送された際の初診時の血圧は一七〇―一〇〇であったこと、宣郎は受傷後約一時間三〇分で意識不明となって死亡したが、同年九月一日に行われた解剖の結果、宣郎の脳の表面には外傷の所見が存しなかったこと、しかし、外傷がなくても脳出血を来し死亡する例があることがそれぞれ認められ、以上の事実に、前記2認定の宣郎は午後七時三〇分ころまで通常の勤務についたこと及び本件事故によって頭部、顔面を打ったことにより、宣郎の脳への衝撃があったものと認められる(その程度は相当大であったものと推測される。)ことを総合して検討すると、もともと高血圧症及び動脈硬化症の基礎疾病を有していた宣郎が、たまたま感冒に罹患し高熱を発していた日に通常どおり勤務したうえ飲酒したことによりさらに血圧が上昇して、脳出血を起しやすくなっていたところに、本件事故に遭遇し、脳への強い衝撃を受け、そのため右基礎疾病が急激に増悪して脳実質内に出血を来たし、前記のとおり死亡するに至ったものと認めることができる。
もっとも、《証拠省略》には、「解剖の結果、宣郎の頭蓋骨に骨折異常はなく、外傷性の所見は全く否定され、本件事故が頭蓋内に影響を与えているものとは考えられない」旨の記載があり、証人伊藤順通も右記載に添う供述をするが、右記載及び供述は《証拠省略》及び前記認定の事実に照らすときにわかに措信しがたい。また、《証拠省略》には、「脳出血は……受傷によって起ったという積極的な根拠がみられない。……両親も脳溢血死という。故にこの発作は病的発作と認められ……」との記載があるところ、《証拠省略》によれば、宣郎の両親はいずれも肺の疾患により死亡したことが認められるから、右書証には誤った事実関係のもとになされた判断が記載されていることになり、その全体の信用性に疑問をいだかせるものというべく、前記認定を左右するものとは考えられない。さらに、《証拠省略》中「本件死亡は病的内出血によるものである」旨の記載もそれだけでは前記認定を左右するに足るものでなく、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
二 責任
1 被告が本件ホースの占有者であったことは当事者間に争いがない。
2 《証拠省略》によれば、本件ホースは近隣の住居から出る生活排水を地下導水管を通していったんためたマンホールからポンプでこれを汲み上げ、道路の反対側の汚水ますに流すためのものであり、排水ポンプの付属物であったと認められるから、本件ホースは、土地に接着して築造された排水設備の一部として民法第七一七条第一項にいう土地の工作物に該るものと解すべきである。
3 土地の工作物である本件ホースによって本件事故が発生したものであることは、既に認定したとおりであるから、瑕疵の存在が一応推定される。もっとも、《証拠省略》によれば本件ホース上を自転車のタイヤが通過する際には、本件ホースと同種のホースは一般に平たい(いわゆるペチャンコ)状態になることが認められるので本件ホースには瑕疵がないのではないかとの疑いも生ずるが、《証拠省略》によれば、本件事故当日前三日間にわたり横浜地方は雨が降り、当日も時々雨が降っていたことが認められるので、たとえ本件ホース上を自転車のタイヤが通過する際、道路との段差が生ずるような状態にはなかったとしても、雨にぬれたホース上でスリップし自転車が転倒した可能性も否定することはできないので、本件ホースに瑕疵があったとの前記推定は覆されない。
4 本件現場に道路を横断する形で本件ホースが置かれていたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、本件現場道路の勾配は約一二・六パーセントであったこと、本件現場付近の照明は本件ホースの北側に約五メートルの高さに防犯灯が一基設置されていただけであったこと、被告主張の投光器は本件現場ではなく材料置場の方を照していたこと、本件ホースは本件現場の坂道に約四五度の角度をもって置かれてあったものであるが、それにつき道路との段差をなくす措置や危険であるとの注意をうながす標識等は設置されていなかったことが認められるので、被告が損害の発生を防止するに必要な注意をつくしたとは到底いえないから、被告の抗弁1は理由がなく、被告は土地の工作物の占有者として民法第七一七条第一項本文に定める責任を免れることはできない。
5 しかして、本件事故発生及び宣郎の死亡の状況は一2、3記載のとおりであるところ、これによれば、宣郎は、高熱等の症状があったにもかかわらず帰宅途中飲酒し、その約三〇分後に自転車を運転したものであり、また、当日朝、本件現場に本件ホースがあるのを目撃していたのであるから、宣郎としては、前方をよく注意して走行するはもちろん、少なくとも本件現場の如き急勾配の坂道においては自転車をおりるなどし慎重に行動すべきであったのに、不注意にも漫然と自転車に乗ったまま本件現場を通過しようとしたものであり、これが本件事故発生及び宣郎の死亡の一因となっているものと認められるから、同人に過失のあったことは明らかである。しかして以上の点を総合すれば、右過失の割合を二割とみて賠償額の算定につき斟酌するのが相当である。
三 損害
1 宣郎の損害
(一) 逸失利益
《証拠省略》によれば、宣郎は昭和一二年七月二五日出生(死亡当時三九歳)の男性で有限会社濱一靴店に勤務して死亡当時年収金二五二万四三四円を得ていたことが認められ、本件事故により死亡しなければ、満六七歳までの二八年間は就労可能で、その間少なくとも右収入を得られたものと推認される。そして、これを基礎として、右稼働期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、中間利息の控除につき複式ライプニッツ式計算法を用いて死亡時における宣郎の逸失利益の現価を算定すれば、左記のとおり金一八七七万四七一三円(円未満四捨五入)となる。
算式
2,520,434×0.5×14.898=18,774,712.86
(二) 慰藉料
本件事故の態様及び本件ホースの設置の瑕疵並びに本件事故後の状況に鑑みれば、本件事故によって宣郎が被った精神的苦痛に対する慰藉料は金八〇〇万円が相当である。
(三) 過失相殺
宣郎が本件事故によって被った損害に前記のとおり二割の過失相殺をすると金二一四一万九九七〇円となる。
2 相続
宣郎の損害賠償請求権を妻及び子である原告らが承継したことは当事者間に争いがない。したがって、原告らが承継取得した額は原告和子につき金七一三万九九二三円、原告和彦につき金一四二七万九八四七円となる。
3 原告らの慰藉料
一、二記載の諸事情、宣郎と原告らの身分関係及び本件事故における宣郎の過失の程度に鑑みれば、本件事故によって原告らの被った精神的苦痛に対する慰藉料は、原告ら各自につきそれぞれ金一〇〇万円が相当である。
4 損害の填補
2、3の各合計額から原告らが損害の填補分としてそれぞれ自認する額(請求原因5)を差引くと、原告和子につき金五七七万四二七七円、原告和彦につき金一〇五四万八五五三円となる。
5 弁護士費用
本件事案の内容、訴訟追行の難易度、認容額に照らすと、原告和子について、被告に賠償を求めうる弁護士費用は金七〇万円が相当である。
四 結論
以上の次第であるから、被告は、原告和子に対し金六四七万四二七七円、同和彦に対し金一〇五四万八五五三円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年六月五日以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払義務がある。
よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条の規定、仮執行の宣言につき同法第一九六条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三井哲夫 裁判官 嘉村孝 裁判官吉崎直弥は、転補のため、署名押印できない。裁判長裁判官 三井哲夫)